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日々、妄想したりとか。ご飯を食べたりとか。働いたりとか。
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 時が長い、と治安維持部隊に所属する多樹(たき)は思った。実際には瞬くような刹那であるはずなのに、もう何時間もこうして戦っている気がする。剣を振るえど振るえど目の前の大虚は片付かないのだ。たった数秒が気が遠くなるほどに長く感じる。斬魄刀を振り上げる腕は既に重く体も思うように動かない。それでも、剣を握られなければ此処で暮す民を守れないのだ、という意識が多樹を奮い立たせた。
(紫雲隊長…)
 森林の奥。大虚の向こうに続く闇を多樹は見据える。
(早く、紫雲隊長の元に)
 そう、眦を決して剣を構えなおした多樹に突如頭上から子供の声が届いた。
「一歩下がれ!」
「っ!」
 かろうじて多樹が反応を返すと今まさに多樹が立っていた地中から大虚が土煙を上げて飛び出してきた。それは多樹の眼前で次の瞬間には、氷の刃で貫かれて霧散した。
「無事だな? 戦いの最中に気を散らすな、死ぬぞ」
 多樹の前に護廷十三隊の死神の証でもある死覇装を来た一人の子供が降り立つ。大虚との戦いの最中、突然現れた護廷十三隊の隊長だった。助けられた事を理解した多樹は、目の前に現れた子供に口を開きかけたが、またすぐに目の前に大虚が現れ、剣を構えなおした。命を失いかけた恐怖を抱くよりも早く、目の前の敵に見せた戦意。多樹のその戦う事への集中力に日番谷が関心したように双眸を細めた事を多樹は知らない。


 今この場所で大虚と戦っているのは、多樹、弥生、村蜘という紫雲の忠臣の三人と日番谷だ。日番谷は治安維持部隊の幹部を名乗る彼らの個々としての能力の高さに驚いている。それは既に護廷十三隊の席官に匹敵するほどだったからだ。それでも、大虚の全てを倒すには至らない。数でいえばこちらは圧倒的に不利だ。彼らの限界も見え始めている。このまま消耗戦になるか、と考えた時、ふ、と日番谷は何もない空を見上げて、気配を和らげた。
「…遅えよ、馬鹿」
 苦笑を滲ませ呟いたと同時、日番谷の目前で大虚の体が何かに串刺しにされたように折れ曲がる。それに驚いたのは治安部隊の三人だ。突如何処からか伸びてきた切っ先が虚を討ち取ったからだ。それが誰のものであるのかを知っていた日番谷は、やれやれと溜息を一つこぼす。すると場にそぐわない鷹揚な声が落とされた。
「助けに来たったでー、日番谷はん」
 日番谷が見上げた先、一本の杉の木の上に、護廷十三隊三番隊隊長、市丸ギンが立っていた。ひらひらと手を振って日番谷ににこやかに笑った市丸はそのままひらり、と木の上から飛び降りて、日番谷の前に降り立つ。
「いやぁ、日番谷はんがピンチやって言われて随分走らされたわ、生きとる?」
「…無事だが、かなり待たされたぞ、市丸」
 そう告げた市丸に、けれど慌てた様子はない。日番谷のいつもの憎まれ口に、本当に大事はないらしい、と市丸は知り、にこり、と笑みを深める。その横で、突然現れたもう一人の護廷十三隊の隊長に、多樹と村蜘、弥生の三人がそれぞれ驚きを表していた。
「死神…」
「まさか護廷十三隊の市丸か、」
「三番隊隊長…!」
 だが、息を飲むように市丸を見据えた彼らの驚きはここで終わらなかった。

「すまぬ、日番谷隊長。遅くなった」

 太い男の声と同時。黒縄天譴明王の名と共に地響きが起こり現れた巨躯の侍が大虚の二匹を討ち取る。
「狛村も来てくれたのか」
 ずん、と存在感を現して戦場に現れた大きな男に、日番谷が告げると笠を被った男がゆっくりと日番谷を振り返った。
「大事はないか、日番谷隊長」
「ああ、俺は平気だ。それよりありがとな、お前確か東流魂街に遠征に出てた最中だったろ?」
「何、この場所に一番近かったから呼ばれただけのこと。気にする事はない」
 日番谷と狛村の会話を聞いていた市丸が面白くなさげに口を尖らせながら、迫ってくる大虚を討ち取って告げる。
「なんや、日番谷はん。僕と狛村隊長で随分態度違うやないのー」
 子供のように駄々をこねる市丸に日番谷は呆れとともに告げる。
「狛村は自分の仕事の最中に駆けつけてくれたんだから礼言うのは当たり前だろ?どうせ、お前は暇してたんだろうが、たまには働け」
「納得いかへん。僕も礼言われたい! 日番谷はんのために僕ら一生懸命走ってきたんやで」
「僕ら?」
 市丸の言葉に、首をかしげた日番谷がそう問い返したその時日番谷の頭上で銀光が二つ、瞬いた。
「随分とにぎやかだな」
 双剣が大虚を討ち取る。そこに現れた人物に日番谷は驚いた声を上げた。
「浮竹…!」
「やあ、日番谷隊長。無事かい?」
「お前は来たら駄目だろ!」
 咄嗟にそう告げた日番谷に市丸の声が続く。
「僕も止めたんやで?でも、日番谷隊長がピンチなら俺がいかなくてどうするって言って聞かんのや、この人。自分とこの三席が止めるのも聞かんでついてきてもた」
「なあに、今日は体調も良かったからな。問題ない、問題ない」
 そう告げた矢先、浮竹がごほり、と咳き込む。
「おいおい、本当に大丈夫なのか、浮竹。血を吐くのだけは勘弁してくれよ」
 自分の為に無理をさせたとなれば彼の三席二人が黙ってはいないだろう、と日番谷は知っているからだ。


「狛村左陣…」
「十三番隊の浮竹隊長まで」
 市丸に続いてその場に現れた二人の護廷十三隊の隊長に、最早多樹、村蜘、弥生の三人は驚きのあまり二の句が告げない。護廷十三隊の隊長一人でさえ彼らにとっては雲の上の人であるのに、その隊長達が四人揃った姿はいっそ壮観と言ってもよかった。驚く多樹達の前でふと言葉を途切れさせた日番谷達が真剣な眼差しで大虚に向き直る。
「戯れはこれくらいにして…」
「なんやよく見ると随分低脳そうな大虚やな、僕はこっちを片付けますわ」
「行こう」
 それぞれ斬魄刀を構え、大虚に対峙する浮竹、狛村、市丸の横で日番谷が静かに多樹達を振り返って告げる。
「後は俺たち護廷十三隊に任せてくれ」
「……」
「いいな?」
 一瞬、驚くように双眸を揺らしたのは三人それぞれ同じだった。日番谷の言葉に何かを言いかけた弥生は結局何も言わずに目礼し、村蜘は頷き、多樹はただ強く日番谷を見据えた。三人から大虚に向き直った日番谷はその双眸に凛とした強さを宿し、そして、大紅蓮氷輪丸の名を紡いだ。


 天候さえ揺るがす氷雪の力。最強を謳う斬魄刀氷輪丸。
 虚空を舞う氷竜に、それを見上げていた三人の誰からともなくその声は呟かれる。
「これが護廷十三隊十番隊隊長日番谷冬獅郎の、力…」
「山本元柳斎が次期総隊長にと推している氷雪系最強の力か」
 強かった。それは圧倒的なほどに。だからこそ彼らは今ここにいない人の名を紡がずにはいられない。
「紫雲隊長…」
 ひらり、舞い降りたましろの雪が、彼らの頬をふわりと撫でた。
 

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 いつもは、コール二回で出る電話が通じない。五回目でようやくカチャリと、受話器が外される音が聞こえて日番谷は苛立った声を紡いだ。
『…はい』
「日番谷だ。今北流魂街で大虚が出没しているはずだ。何処の隊が討伐に出たか、教えろ」
 伝令心機の向こう。日番谷がかけたのは護廷十三隊の中でも異質と評される事の多い、技術開発の情報局だった。
『あ、えっと、あの』
 応答したのは、見知らぬ女の声だった。突然の護廷十三隊の隊長からの通信に、戸惑うように口ごもった女に、いつもは他隊の隊士に声を荒げた事のない日番谷が珍しく苛立った舌打ちをこぼす。その声を聞いた女は、息を詰めるような気配を漂わせたが一瞬後、慌てたように告げた。
『…ど、何処も出動しておりません』
「何っ?どういうことだ」
『あの、総隊長の許可がおりないので、どの隊も待機、――』
 そこまで告げて、女の声は日番谷の声に遮られた。
「ばかやろうっ何悠長な事言ってやがる! 今実際に流魂街の民が襲われてるんだぞ! 何処でもいいから、出動命令を出せっ!」
 屋敷の中は騒然としていた。既に、治安維持部隊の隊員達は、紫雲と共に討伐に出ていたからだ。誰に見られることもなく屋敷から抜け出した日番谷は北西の空が不穏な気配で揺れているのを肉眼で見た。弥生と、呼ばれた男は大虚が出たと告げたのだ。護廷十三隊がそれを把握していないはずがない。まがまがしい気を直に肌に浴びて危険を察する日番谷は、護廷十三隊の隊が何処も動いていない事を知って激しい憤りを覚えた。伝令心機の向こう。女がひっ、と恐怖を滲ませた声を出す。それに一瞬罪悪を覚えても、口から出た言葉は取り消せない。バツが悪そうに悪い、と呟いた日番谷は、声を抑えて再び同じ言葉を告げた。
「何処でもいい、十番隊隊長からの要請だといって、何処かの隊を出動させてくれ」
『ですが、総隊長が…』
 尚もそういい募った女の声に再び声を荒げそうになった日番谷はけれど、伝令心機の向こうで突如男の声が聞こえて押し黙った。
『もしもし』
 揉めている様子の女の通信機器を取り上げ、変わったのだろう。その見知った声に、少しは話のわかる奴がいたか、と日番谷は胸の内で呟いた。
『日番谷隊長ですか。あんま、新入りを虐めんでやって下さいよ』
 苦笑が含まれたその声は、言葉ほど日番谷を咎めてはいない。何処か飄々とした声音で話す男に日番谷は短い溜息を吐いてその名を呼んだ。
「阿近か、」
『ええ。たまたま今日は情報局(こっち)にいたもんでね、揉めてるようでしたから電話変わりました。何かありました?』
「北流魂街で大虚が出た」
 一瞬の沈黙。通信機器の向こうでカタカタと機械を操作する音が聞こえる。一呼吸後、再び阿近の声が届いた。
『確かに。32体ほどいますね。今あんたがいる場所からさらに北北西へ三里行った所です、それで?』
「待機要員に出動要請を出せ」
『許可が下りるのに半刻ほどかかります』
「悠長に許可を待ってられるか。俺からの要請だと言って今すぐに隊を動かせ、責任は俺が取る」
 実際には総隊長の許可無く隊を動かす決定権は四十六室しか持っていない。だが、阿近は頷いた。責任を取ると、告げた日番谷の言葉を信じたからだ。阿近は日番谷が言葉を違えない人間である事を知っているくらいには、この幼い隊長と面識があった。責任はとる、と告げたならば、必ず何らかの形で咎がこちらに降りないように日番谷はするはずだ。
『分かりました、7分持ちこたえてください。誰かを向かわせます』
「頼んだ」
 それだけ告げ、伝令心機はふつりと切れた。大虚の霊力が地図上に点滅で示されたモニターを見上げた阿近は、「さて誰に頼んだもんかね」と煙草の煙をたゆらせながら、伝令心機の通話ボタンを押した。コール二回。繋がった相手に阿近は告げる。
「――阿近です。日番谷隊長からの要請です」


 
 阿近との通信を終えた後、日番谷が向かったその場所はまさに、戦場と呼ぶに相応しい惨状だった。
「荷物は諦めろ!」
「山を越えるんだ!」
 民に避難するように叫んでいる男は治安維持部隊の人間だ。日番谷が屋敷へ来た日、建物の中を案内した人のよさそうな青年だった。着るものもとりあえずといった様子の民を急かしながらも、しっかりと誘導している男達の中には、あの日門衛を務めていた二人の男もいた。その男の一人がはっ、と息を詰めるように空を見上げるとその双眸を驚愕に見開いて、突如叫んだ。
「皆、伏せろ――!」
 男の声と同時。治安維持部隊の男達は空を振り仰いだ。大虚に誘われて何処からかやってきたらしい虚が一匹、獲物を物色するように空を旋廻した後、一人の赤子に狙いを定めて急降下する姿が見えた。赤子を抱いていた母親がそれに気付くと悲鳴を上げて腕の中に守るように赤子を抱きかかえた。治安部隊の男達がそれぞれ自身の斬魄刀の鯉口を切る音が重なり合う。だが、男達が剣を振りかざすよりも早く、目にもとまらぬ早さで降下していたはずの虚が、空中で白い光に貫かれて音を立てて霧散した。
「何っ?」
「一体何が、」
 見上げた男達は、突如一匹の虚が掻き消えた空から、集っていた全ての虚が消えている事を知った。虚のカケラと共に降り注ぐ白い光に気付いて手を伸ばす。
「…雨?」
 手の中にぽつりと落ちた冷たい感触にそう呟いた男は手の平に残された結晶にそれは違うと、知った。
「違う、雪だ」
 一体、何が起こって虚が消失したのか男達には分からない。突然虚空に現れた光矢がそのまま虚を貫き一瞬で掻き消してしまったのだ。闇の中でちらちらと降る雪を見上げた男達は、しばらく放心したようにそれを見ていたが、この場には不釣合いな声を聞いて、はっ、と覚醒するように振り返った。
「おい、紫雲は何処にいる」
 男達が振り返った先、先日部隊に入りたいと屋敷の前で土下座した少年がいた。少年がそれを問うたのは屋敷を案内した青年だった。
「士郎?!」
 青年はあの日、少年が着ていた浅黄の着物ではなく、漆黒の袴を身に着けてその背に斬魄刀を持っている少年の姿に驚いた様子でその名を呼ぶ。
「ってお前、その格好…!」
「紫雲は?」
 その姿に驚くも何処か威圧を与えるような日番谷の声に、敬愛する隊長の所在を問われて、はっ、と思い出すように、青年は慌てた声で告げた。
「紫雲隊長は今大虚を追って森の中に…」
 そこまで告げた青年の声に日番谷は舌打ちをこぼして青年が指し示した山へ向かって駆けた。
「あっおい! 士郎! 何処に行くんだよ!」
 一瞬で遠ざかっていく日番谷の背に、ひらり、ましろの羽織が翻る。その背に描かれた十の文字が視界に飛び込んで、青年は絶句した。一呼吸後、冷静さを取り戻した青年はようやく日番谷が何者であるかを身形から悟って素っ頓狂な声を上げた。
「って士郎って護廷十三隊の死神?! しかも隊長かよっ!!」
 
 

 森が燃えていた。
 到る所から黒煙が立ち上る。視界の片隅で、赤い炎に揺れる森の向こうに広がる空が、罅割れていた。大虚が空間を割ってこちらの世界に雪崩こんでいるのだ。瞬歩で駆けた森の中で、霊圧の揺れる場所を探っていた日番谷は、湖面が広がる場所で数名の男達と大虚が交戦している姿を見つけた。大虚と戦っているのは治安部隊の男達に違いなかった。
 男達は部隊の中でも能力が卓越している者たちらしく、大虚相手にも果敢に立ち向かっていく。だが、数が数だった。一匹を討ち取る間に他の大虚に取り囲まれ排水の陣を余儀なくされた彼らが次第に苦戦を強いられていく姿を視界の中で捉えた日番谷は迷わず斬魄刀の柄を握った。
 その時、大気を振るわせたのは、ひやりと肌を凍てつかせる冷たい空気だった。後衛で大虚と戦っていた男の一人が突如代わった空気に気付き、驚いたように振り返る。そしてそこにいる日番谷を見て、双眸を揺らした。
「村蜘! 余所見をするなっ」
 仲間が声を荒げたがもう遅い。はっ、と息を詰めて村蜘と呼ばれた男が声がしたほうへ振り返るとそこには大虚が迫っていた。たった一瞬日番谷の霊圧に意識を奪われた村蜘に、大虚が襲ってかかった。
 その時、視界を覆った氷雪の竜を、村蜘は決して忘れないだろう。

 

「――霜天に座せ、氷輪丸」


 声はまるで耳元で囁かれたように静かに村蜘の耳を打った。眼前で不自然に空気がうねる。それは次第に龍の姿を形作り、低く轟くような咆哮を上げたと思った瞬間、村蜘に襲いかかった大虚を一瞬で掻き消した。弾け飛ぶ虚の姿に絶句して村蜘が振り返った先、一人の子供が氷竜を従えて、地に降り立つ。
「貴方は…」
 満ちる冷気に歯の根が鳴りそうになるのを必死で堪えて村蜘は告げた。突如現れた子供はいまだ右手に氷竜を従えたまま、地に膝をついた村蜘に一瞬、視線を移すとすぐにまた視線を前方に戻す。
「言いたいことはあるだろうが、死にたくないなら、立て」
「え?」
「大虚が来る」
 言うが先、短い咆哮を上げて再び違う大虚が迫り来る。くっ、と息を詰めて立ち上がった村蜘は再び斬魄刀を構えた。その横で日番谷に静かな眼差しを向けていたのは、いつも紫雲の横に控えていた弥生という男だった。
「我々に手を貸すと?」
 日番谷を護廷の人間と認識した上で、敵か見方か推し量るように冷静な声で問う。
「それともこの混乱に乗じて護廷は我々を潰すおつもりか」
 それは日番谷の行動を測りかねたがゆえの挑発だったが日番谷は眉をひそめただけだった。刹那弥生を見上げた日番谷は向かってくる大虚を見据え興味なげに告げる。
「お前たちが俺をどう思おうが勝手だが、」
「……」
「俺は俺の本分を全うしに来ただけだ」
「貴方の本分とは」
 かちり、と、剣を構え日番谷はふ、と気配を和らげて告げた。
「死神の本分といったら決まってるだろ?」
 躍り出るように、日番谷が地を蹴る。
「虚の浄化だ!」


 氷竜が、美空を舞った。
 

 

以前日記にあげていた話の続きです。
オリキャラ出張ってます。すいません。
大丈夫ですよーって人は下へどうぞ。













 

 治安維持部隊を名乗る組織の隊長はその日流魂街の民からの要請で虚の討伐に向かった。潜入して二日目の朝。入隊したいという意志を告げ、屋敷への出入りを許された日番谷が「少し霊力の高い流魂街の子供」という認識で、ここの屋敷の人間たちに受け入れられつつある頃だった。

「紫雲隊長は?」
 日番谷は訓練場で、下っ端の男たちと混ざって竹刀を振るいながら、そこから見える窓から、紫雲と名乗った青年が屋敷から出て行く姿を見た。訓練場には還暦を越えるほどの年齢の男も日番谷とさほど代わらぬ年の子供も共に、斬魄刀を持って、有事に備えて訓練に励んでいた。身なりこそ違えど、その光景は護廷十三隊の死神たちと変わらぬものに、日番谷には見えた。
「ああ、隊長は今から虚の討伐だ、長い遠征になるらしいぞ」
 日番谷の隣で、先日日番谷に屋敷内を案内したニキビ痕の残る青年が、共に同じ窓から、遠ざかっていく紫雲を見て告げる。腰に一本の斬魄刀を差した紫雲の後を、何人かの男達が剣を持って歩いていく姿が見えた。
「そうなのか…」
 紫雲に続く彼らは組織の上層に位置する人間だ、と日番谷は判断した。刀を交えなければ本来の力は分からないが、彼らが持つ霊力は訓練場で待機を言い渡された男達のそれとは明らかに質が異なった。その霊力は、護廷十三隊の死神と比べても引けをとらないかもしれない、と日番谷が冷静に考えていると、彼らを見据えるその眼差しが自然と真剣なものに変わる。隣にいた青年に「どうかしたのか、士郎?」と、呼ばれて、日番谷は「なんでもない」と告げ、紫雲を視線で追う事を止め、再び彼らと共に訓練に励んだ。


 流魂街の、それも荒廃の進んだ63番地区を拠点に、護廷十三隊のどの隊よりも早く虚討伐に出陣するほどの情報力と機動力を備えたこの部隊に、日番谷は素直に感嘆していた。それゆえに、裏で、違法にクスリを売りさばいているとなれば、残念でならない。彼らが虚討伐に赴いているその事実が、荒廃の進んだこの地区でどれだけ民を救っているかが、手にとるように分かるからだ。
(…これじゃあ死神の面子がねえな)
 この北流魂街63番地区ではおそらく護廷十三隊よりもこの治安維持部隊は民からの信頼が厚いだろう。
(だが、ジイさんがこの事を知ったら、ただじゃすまねえ)
 現在、尸魂界の最高司法組織である四十六室は、護廷十三隊以外の軍事力を認めていないからだ。
(クスリの事だけじゃなく、こいつらの能力は、報告の必要がある)
 それは日番谷に当たり前に課せられた義務であり、日番谷自身も当然のことだと考えていたが、この時、内心、幾許かの逡巡を抱いたのを、日番谷は自覚した。
 日番谷は良くも悪くも護廷十三隊の人間だ。今となってはそれ以外の何者にもなれない、と日番谷は知っている。だが、それよりも以前に、日番谷はかつて、人を救いたいと剣を取った彼らとおよそ等しい気持ちを持つ、流魂街の民であった。
 その時、逡巡を心の中で掻き消した日番谷は、不意に、背中に人の視線を感じた。敵意はない。だが、探るような人の視線。一瞬で掻き消えたそれは、窓の向こう地平線の彼方へ消えていこうとしている紫雲のものではないかと、振り返った先、遠ざかっていく彼らを見据えて、日番谷は思った。


 
 その夜。
 日番谷は屋敷の中で唯一まだ探りを入れたことのない紫雲の私室へ忍び込んだ。これまで有益な情報は何一つ得られていない。此処を調べた後は、一度護廷に戻り、報告を入れるつもりだった日番谷は闇に紛れる漆黒の死覇装に、己の斬魄刀である氷輪丸を背負っていた。普段は執務室も兼ねている紫雲の私室は、主が討伐に出て、不在の為、暗い静けさに満ちている。そして、日番谷は忍び込んだその部屋で月明かりに晒された座机の上に置かれた一枚の写真を目に留めた。
 その時。
(――主、我を抜け!)
 声は、身の内から響いた。斬魄刀、氷輪丸の射抜くような鋭い声。一瞬後部屋の中の異変を悟った日番谷は、背に背負った斬魄刀の柄を握った。
 抜刀一閃。
 日番谷の振り返った目前で、闇の中で光る刀の切っ先が、二つ。
 一つは凍てつき、一つは燃え上がる。
(青い、)
 その色を、日番谷が視界で捕らえた瞬間。
 青い炎をまとった剣が、己に向かって振り下ろされるのを日番谷は視界で、捕らえた。
 
 灼熱と氷雪。
 相食む二つの刀が鍔ぜり合う。

 日番谷が抜いた氷輪丸の向こうで、斬魄刀を握る青年の姿が炎に照らされるようにゆらりと現れる。その瞬間、部屋の中に響いた声に、日番谷は己の失態を悟った。
 「今のは、結構本気だったんだけどなあ。さすがに護廷十三隊の死神を一撃で仕留めようなんて、ムシがよすぎるでしょうか」
 部屋の中に気配はなかった。ましてや殺意すら。
 だが、今日番谷の目の前で剣を構えて立つのは、遠征に出たはずの治安維持部隊を束ねる紫雲由時、その人。
「紫雲か…!」
 互いに剣を構えたまま、日番谷と紫雲の視線が刹那交差した。ただの霊力を持つ流魂街の民として組織に受け入れたはずの子供が、斬魄刀を持ち、死覇装を着ている姿を見ても紫雲に驚きや恐れはない。出会った印象のそのままにただ穏やかな風情でそこに立つ。その時、瞬きを数度。紫雲が日番谷の目の前でふ、と息を吐くように微笑んだ。その姿に日番谷は、紫雲の遠征は、自分を此処へ誘き寄せるために装われたものである事を悟った。やはり、紫雲は初めから日番谷が何者であるかを知っていたのだ。屋敷は既に日番谷が逃げられないように取り囲まれているだろう。
(泳がされたな)
 冷静にそれを理解しながらも、業腹ではある。こんな時の為にいくつかの脱出口を確保していたが、それでも、今ここにいる紫雲と一戦交えなければならない状況は変わらなかった。
(めんどくせえことになったな)
 なまじ霊力を持つ相手だけに、加減をして戦う事は容易ではないのだ。
(さて、どうしたもんか)
 紫雲としては日番谷を捕らえ、目的を吐かせたあとには、護廷十三隊との取引に使いたいだろう。それができなければ、今此処で確実に仕留めておきたいはずだ、と日番谷が思考し、剣を構えたその時、紫雲の私室の扉が突如かちゃり、と音を立てて開いた。
「…紫雲隊長、よろしいですか」
「弥生か、何?」
 扉の奥から現れたのは、今朝方紫雲と共に、遠征に出たはずの幹部の人間だった。弥生と呼ばれた男は、部屋の中で剣を構えたままの日番谷には視線も向けず、いまだ溢れる日番谷と紫雲の霊力にも驚く事はない様子で静かに紫雲に礼をとる。黒髪を後ろで緩く束ねた長身の男だった。切れ長の目で、どこか鋭利な印象を持つ。力を出し切ってはいないものの、護廷十三隊の隊を束ねる日番谷の霊力を前にして冷静な男に、この男も只者じゃない、と日番谷が思った矢先、男の低い声が口早に紫雲に告げた。
「大虚です。数はおよそ30」
 沈黙は刹那だった。その声に紫雲の構えた剣の先が僅かに揺れた。穏やかだった紫雲の気配に、鋭利なものが混ざる。それはまさしく人の上に立つ者の姿。
「…護廷の動きは」
「いまだありません」
「そう、相変わらずだね。流魂街の民を見捨てるなんて。これが、治安のいい地区や、瀞霊廷の貴族が襲われているんなら、目を血眼にして討伐に出ているだろうに」
「どうしますか、私が出ましょうか」
 紫雲の意向を問う男は、自分達だけで倒せるという自負を抱いているわけではない。このまま紫雲が日番谷と、剣を交えるかどうかを聞いているのだ。男は、紫雲の願いを知っていた。その問いに、紫雲がふ、と息を吐くように構えを解いたのを見て、驚いたのは日番谷だった。闇の中で、鍔鳴りが響く。青白い炎が掻き消え、紫雲は斬魄刀を鞘に収めた。部屋の中に闇が舞い戻る。
「いい。僕が出る。前線には、多樹と村蜘を、他の配置は弥生に任せる。残りは流魂街の民を安全な場所まで誘導して。足の遅い女子供と老人を最優先に」
「分かりました」
 剣を構えた日番谷の前で、紫雲はそのまま踵を返した。戦意は既にない。いまだ剣を構えたままの日番谷に躊躇うことなくその背を向け紫雲は歩き出した。
「待てっ紫雲…!」
 そのまま何事もなく扉から男と出ていこうとする紫雲を日番谷は呼び止める。その声に、紫雲は視線だけで振り返った。刹那合わさった視線は、すぐにまたそらされた。
「貴方とはいずれまた」
「………」
「護廷十三隊十番隊隊長、日番谷冬獅郎殿」
 そのまま厳しい眼差しで部屋から出て行った紫雲の後ろで、弥生が日番谷に向かって静かに目礼した。
 


 一人部屋に残された日番谷は、静寂の戻った部屋を振り返った。視線の先、座机の上に置かれた写真を手にとる。
「宍道か…」
 その写真には、護廷十三隊の資料で見た記憶のある宍道武彦の姿と、幼い紫雲の姿が仲睦まじく寄り添っていた。刹那、思考するように眼差しを緩めた日番谷は、写真を机に戻し、そのまま紫雲を追うように部屋の中から姿を消した。


(体調)復活しましたぁー!
拍手ぱちぱちくださった方々、ありがとうございます。
以下拍手お返事です。お待たせいたしました。



●五月二十九日いつも~の方。


こんにちは。拍手とコメントどうもありがとうございます。
遊びに来てくださって、嬉しいです。
お言葉、とても励まされました!
また、沢山書いていきますので(希望)、これからもよろしくお願いします~。
またお越しくださいませ!頑張ります^^




●神海さま

わぁあ、神海さん、お久し振りです。お元気ですか。
拍手とコメントありがとうございます。まさかおジャ魔女に反応していただけるとは…(笑)
みんな可愛いし、かっこいいし、毎回色んな人にメロメロでした。
SOSトリオとかひそかに好き。(解散しちゃうけども・笑)
おジャ魔女カーニバル・・・えぇえっえぇえっ!聞きた…!今度カラオケご一緒してくださ…!
(横で、ちっちゃくハモッてていいですかー・笑)

市丸と元三席の話にご感想くださってありがとうございます。
最近本誌で市丸が沢山出てきて嬉しさのあまり(笑。市丸やっぱり好きだぁ)、書いてしまいました(内容はアレやけど)市丸かっこよすぎて、初心の市日にモドロウカーなんてちらっと考えておりましたよ。笑。
MEMO内のお話も読んでくださってありがとうございます。恥ずかしい…。
続き、気長に待ってやってください。


こんな所でなんですが(本当に…)、いつも遊びに行かせてもらってます、
鰤の新しい市日の話が更新されてたときは飛び跳ねておりました。(^v^)

これからもよろしくどうぞ~。




お恥ずかしながら職場で倒れてしまいました。びっくりしたなーもー。
なんだかその日床が何回か揺れてるような気がしたんですが、揺れてるの自分っていう(笑)
まだちょっと本調子ではないですが、薬飲んで普通に出社してます。

あ、倒れたといっても貧血と頭痛と疲れで、大事はありません。元気です!(あれ)
職場の人に
「知恵熱でしょ」
「試験前に慣れない勉強するから・笑」
なんていわれております。


い・た・わ・っ・て!




そんなわけで拍手お返事もうしばらくお待ちくださいませ~。
今日も働いてきます。


 

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